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環境社会学会からのお知らせ

会長メッセージ

新会長挨拶—4つの面で「つなぐ」役割

井上真(早稲田大学)

 このたび、谷口吉光前会長の後任として会長を仰せつかりました井上です。どうかよろしくお願いします。私はしばらく諸々の事情で全ての学会活動を休止していたのですが、数年前に複数の学会活動に復帰し、当学会の面白さを再発見したときの興奮は新鮮な驚きでもありました。小さくまとまったきれいな研究発表よりも、荒削りで今後の展開を期待させるような発表、そして発表者の問題意識と熱意をストレートにぶつけてくるような発表に胸が躍ったのです。「この学会は大丈夫だ」と確信した瞬間でした。
とはいえ、当学会が直面している大きな課題が会員数の減少であることは周知の事実です。この趨勢に対して「守り」に入って閉じこもるのではなく、むしろ「攻め」の姿勢を表明したのが谷口前会長のリーダーシップのもと今年6月の総会で提案されたウェブサイトのリニューアルと会費値上げでした。会員の皆さまの意思表明として総会で承認された「攻め」の姿勢をいかにして効果的に具体化するのかが、今期の理事会に課された役割です。
社会学の出身でない私は学問的に当学会の中心にいるはずがなく、周辺部をうろうろしている立場です。そのような私が当学会のためにできることは、まさにこの立ち位置を活かしながら攻めることでしょう。その際のキーワードは「つなぐ」です。私は以下に示す4つの面で「つなぐ」役割を果たす所存です。

■他学会との連携
他学会との連携を深めるため、新たな仕組みを導入したいと思っています。複数の学会を「連携学会」(仮)に指定し、文書を交わし、当学会の会員でなくても大会での口頭発表を可能とする仕組みの導入を検討します。この仕組みは私が関わっている別の学会で既に導入しており、大会の活性化に寄与しています。
■実践家・NGO・NPOとの連携
常に現場・社会との緊張関係の中でもがきながら学問的展開を模索するのが当学会の特徴だと思っています。そうであるならば、実践活動をされている方々にもっと関わっていただくことは当学会にとってプラスになるはずです。そこで、新たな会員種別として「市民会員」(仮)を設け、学会誌の配付をしない代わりに年会費を安く設定することを検討します。また大会で通常の「研究報告」の他に「実践報告」(仮)の発表形式を導入したり、サイエンスショップのセッションを設置するなど、研究活動委員会の協力を得て検討します。
■社会への発信
当学会の特長の一つは、公害・環境問題の被害者・被災者に寄り添いながら問題に切り込むことです。しかし、このような被害者・被災者の視角は少数派の視角でもあるため、なかなか社会の中で大きな力となりません。この数年にわたり当学会の震災原発事故問題特別委員会は目を見張るような取り組みをしてきました。このような取り組みを含めた当学会員による研究成果を社会へ発信する主体は学会員個人であることは確かですが、「理事会声明」として発信すればより大きな力になる可能性があります。
そこで、理事会声明を公表する仕組みを検討します。おそらく、理事会声明をまずは学会ウェブサイトに掲載することになるでしょう。そのため理事会での決定プロセスを詰める必要があります。さらに、発案者(学会員)が個人として新聞(全国紙、地方紙)のコラムに投稿し、その中で理事会声明をウェブ上で掲載していることを明記するなど工夫をすることでより効果的な発信になると思っています。
■世界への発信
まずはこれまでの国際交流委員会の努力によって継続されてきた「東アジア環境社会学国際シンポジウム」(ISESEA)や「国際社会学会」(ISA)への積極的な参加をお願いします。
それに加えて、「国際コモンズ学会」(IASC)を新たなターゲットにして欲しいと思います。この学会はノーベル賞を受賞したエリノア・オストロム氏が初代会長を務めた学会です。私は2019年1月より会員選挙によって理事(任期6年)に選任されました。会長と理事など執行部9名のうちアジアからの選出は私一人ですが、アジアの研究者によるネットワーク構築と研究交流によって、アジアの潜在力を顕在化する方策を検討中です。
その一環として、当学会の会員の皆さまに是非ともIASCの大会、アジア地域会議などに参加して欲しいと思っています。当学会がIASCのワークショップなどに「後援」や「協力」という形で関わり、当学会の会員も研究発表などに参加することはそれほど難しいことではないでしょう。実は、もっと積極的な関わりも可能なのです。会員の皆様の所属組織等が企画・実施するシンポジウムやワークショップをIASCの地域会合として認めてもらうのです。そうすれば、広報のみならずウェブ上での参加登録・参加費支払いシステムをIASC事務局が担ってくれます。もちろん、IASCへの支払いは必要となりますが、日本国内の素晴らしい研究成果を世界へ発信しつなぐことは今後の当学会の展開方向としてきわめて重要だと思います。ご相談くだされば具体的な相談が可能です。

以上、国際連携を除く3つについては早い時期に具体的な会長案として理事会に提示し、任期中の2年間で実現できるよう準備いたします。
環境社会学会は日本の将来にとって必要不可欠であり、力のある団体でなければいけないと思っています。そのベースとなるのは会員個人の研究であり、研究のクオリティ維持・向上のため重要な役割を帯びているのが編集委員会と奨励賞選考委員会です。
私個人は力不足で歴代会長と比べるべくもありませんが、信頼できる各種委員会および会員の皆さまの協力があれば、なお一層ワクワクするような学会にしてゆくことができると確信しています。

2019年6月

学会声明

環境社会学会理事会声明(2020年10月6日)

「第25期日本学術会議新規会員任命拒否への異議」

内閣総理大臣は、第25期日本学術会議新規会員候補として日本学術会議が推薦した105名の候補者のうち6名の任命を拒否し、その理由を明らかにしていない。このような決定は、政府による研究者への無言の圧力となり、研究者の自由な発想に根ざした学問の展開と社会の発展を阻害するものである。これに対し、日本学術会議は2020年10月2日、内閣総理大臣に宛て「第25期新規会員任命に関する要望書」を提出した。
 
環境社会学会理事会は、日本学術会議による上記要望書を支持し、同会議が推薦した会員候補者が任命されない理由を明らかにすること、および2020年8月31日付で推薦した会員候補者のうち、任命されていない方について速やかに任命することを求める。
 

環境社会学会理事会声明(2020年9月28日)

「福島第一原子力発電所事故発生から10年の経過をふまえた被害者救済のあり方について」

福島第一原子力発電所事故からあと数か月で10年に届こうとするなか、事故の被害者による集団訴訟が全国各地の地裁・高裁、また最高裁で進んでいる。本声明は、国の原子力損害賠償紛争審査会の指針(以下、原賠審指針)が、原発事故による被害者の将来にわたる救済をはばむ障壁となることのないよう、当事者である原因企業、行政、そして司法に対して認識を促すものである。

原賠審指針は、可能な限り早期の被害者救済に寄与すべく策定されたが、損害の全てを網羅したものではなく、状況の変化に応じた見直しがありうること、原因企業の柔軟な対応が求められることをも示している。

にもかかわらず、被害の実態を狭くとらえ、その広がりや多様性・多面性を十分にふまえないままに「解決した」「終結した」とすることは、将来的には問題をより複雑化させ、その解決を遠ざける危険性がある。その危険性を回避するためには、とくに、(1)被害の過小評価、(2)被害の潜在化とその放置、(3)「被害にもとづく賠償」から「賠償総額にもとづく抑制された被害認定」への逆転、の3点に留意すべきである。

 

(1)被害の過小評価

原賠審指針は、最低限賠償されるべき損害を示すガイドラインであり、被害の総体をカバーするものではない。にもかかわらず、原因企業は、ADRや裁判において、十分な賠償を定めた基準であるかのように援用し、被害を過小評価している。

環境社会学の被害研究の教えるところでは、環境汚染にもとづく被害は、家族生活や地域生活といった社会的な関係性において増幅し、それらが個人の生活に多様な形でふりかかってくる。またこうした社会的増幅は、汚染物質に曝露されていない周辺の人々を巻き込み、二次的な被害をもたらす。

福島第一原子力発電所事故(福島原発事故)被害者による集団訴訟において提起されている「ふるさと喪失(ふるさと剥奪)」という社会関係の次元を視野に入れた損害の指摘は、まさに環境社会学が捉えてきた被害の社会的増幅を司法の場で可視化するものである。問題は、こうした被害の総体を到底カバーしているとはいえない原賠審指針を、原因企業がADRや裁判において十分な賠償を定めた基準であるかのように主張している点である。このような損害賠償の判断は、社会関係のなかで増幅され個々人の生活の様々な局面に入り込む被害の実態を過小評価することにもなりかねない。

被害は、公害問題における婚姻差別が典型であるように、福島原発事故によって設計を変更せざるを得なかった人生の歩みのなかで折々に現れ、時間的に長期にわたって様々な形で社会的に増幅されうる。現時点で顕著に現れている被害だけでなく、将来的な被害も視野に入れた救済策が講じられるべきである。

 

(2)被害の潜在化とその放置

原賠審指針は、生活全般にわたる被害を不可視化するだけでなく、被害を訴える行為を自己抑制させ、これにより被害の潜在化と被害放置を将来的にも拡大させていく懸念がある。

環境社会学における公害研究は、これまでに理不尽な差別や攻撃など、被害を訴えることにともなう様々な二次的被害を避けるために、「被害者が被害を隠す」ことによる被害の潜在化という問題を明らかにしてきた。またそうした事態は、水俣病認定制度の例に示されるように、救済のための制度によってむしろ促進されてしまうことも明らかにされてきた。被害の潜在化や被害放置は、結果的に問題の長期化につながっており、被害者のみならず原因企業や行政、そして地域社会にとって長期間にわたり大きな負担となっている。

福島原発事故においても、この被害の潜在化および被害放置が生じていることが懸念される。第一に、原賠審指針にもとづく被害の過小評価は、必然的に被害の潜在化を引き起こすことになる。第二に、原因企業の和解案拒否によってADRの打ち切りが相次ぎ、被害者が改めて裁判に訴えざるをえない状況も、被害の潜在化と放置を促進させている。第三に、裁判などでしばしば主張される、原告側の訴えを「一部のものに過ぎない」とする加害者側の言い分は、被害の潜在化の問題を看過し、被害放置を拡大させる契機をつくりだしている。

 

(3)「被害にもとづく賠償」から「賠償総額にもとづく抑制された被害認定」への逆転

原発事故による被害の賠償は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法にもとづいて、国が同機構を通じて原因企業に賠償原資を資金交付する仕組みになっている。そのため、本来の「被害の考量にもとづく賠償の決定」という過程から逸脱し、「賠償の総額への配慮にもとづいて被害の考量の制限が加えられる」という逆転現象が生じ、被害の過小評価や被害の潜在化・放置が進行しているのではないかと懸念される。

被害者の救済は、本来であれば、まず被害の大きさが考量され、それにもとづいて加害者による賠償の大きさが決められる形で行われるべきである。しかし、水俣病事件にみられるように、これまでの公害事件においては、逆に、賠償の総額(の抑制)が個々の補償を判断する前提となり、認定される被害の大きさを左右するという現象が生じてきた。そして、このため問題の解決が先送りされるという状況が生じた。

原発事故の被害者救済についても、賠償の早期打ち切りが進められ、賠償総額の抑制が図られているのではないかと懸念される。このような対応が続けば、被害放置状況が今後長期にわたり生じることになる。このような事態を回避するためには、現行の原賠審指針の中身と運用を抜本的に見直し、「被害にもとづく賠償」を適切に行うべきである。

 

政府が東日本大震災の「復興期間」とする10年が経過しようとしている。しかし原発事故により生じた被害の救済は不十分であり、むしろ長期にわたる被害放置を生み出すことが懸念される。現時点において明らかになっていない多様な被害が潜在化している可能性を常に念頭においておかなければ、これから先、20年後、50年後も、原因企業や政府は、被害の顕在化のたびに対応を迫られることになろう。そのような愚を回避すべく、また結果として早期的な問題解決へと至るよう、原因企業、行政、および司法は、現行の原賠審指針に固執せず、被害に真摯に向き合い、公正な判断を下すことを期待する。また、被害実態に即した原賠審指針の中身と運用の抜本的な見直しに、早々に着手すべきである。