セミナー・研究会のご案内、ご報告

環境社会学会からのお知らせ

アンケートの結果を公表いたします。

託児世話人会により、2010年4月から6月にかけて、環境社会学会員を対象に実施された託児に関するアンケートの結果を公表いたします。(PDF形式です。Adobe Readerをご用意ください)
アンケート結果分析2010
シッター代過去データ

東日本大震災にあたって

新会長挨拶

牧野厚史(熊本大学)

 井上真会長の後任として会長になりました牧野厚史です。皆様にご挨拶を申し上げます。よろしくお願いいたします。さて、私が、環境社会学会に関わり始めたのは90年代後半だと思いますが、当時のことはあまりよく覚えてはいません。阪神・淡路大震災があったりして、身辺が混沌としていたこともあります。けれども、報告者へのフロアからの質問が活発なことにびっくりした覚えがあります。当時は、環境社会学をしようとおもって研究を始めた方はほぼ皆無でしたから、社会学から環境にどうアプローチするかをめぐって、熱い討論が交わされていました。その熱気にあおられて、地域社会学の研究を始めていた私も入会をいたしました。
それからの社会の変化を考えると、環境社会学の活動は、以下の2つの点で成功を収めたといえます。それは、環境を考える際の社会の重要性が認められたことと、学問分野を超えた研究やアカデミズムをこえた実践の推進という2点です。
人間と環境という言い方があります。しかし、環境との関わり方を具体的に考えると、人間を一塊とみなすという考え方では不十分だということに気付きます。社会を構成する人間たちは、それぞれ個性を持つがゆえに、環境について互いに協力したり、深刻な紛争を抱えてしまったり、相互に無関心であったりします。また、実際に環境が問題化している現場での人びとの関係には露骨な格差と支配のシステムの連動がみられることも少なくありません。こうした分裂が日常化している社会の実状と向き合わない限り、環境と関わって生じる様々な問題群を解いていくことは難しいという主張は広く理解されるようになりました。これが、成功の1点目です。
もうひとつは、学問分野を超えた研究やアカデミズムを超えた実践推進の方向が強まってきたことです。環境は、総合的な面を持っており、環境に生じる問題は、様々な領域にまたがっていることがほとんどです。そのため、分野をこえた研究や実践が必要となります。政策の立案や実行、社会的活動までを考えるなら、この点は明らかです。そのこともあって、環境社会学会では、当初から、学問分野を超えた構成員の多様性が重視されてきましたが、この点では、特に井上前会長のもとで顕著な変化がありました。実際に社会学とは異なる方法論で環境について取り組んでこられたいくつかの学会との連携が実現しましたし、アクションリサーチや市民調査などを推進したり討議したりすることができる、制度的な仕組みについても検討がなされました。それらの方向は、今後も強化する必要があります。これが成功の2点目です。
けれども、こうした成功の一方で、課題も見えてきています。課題というよりも、伸びしろといった方が適切かもしれません。その一つに、私たちが共有している社会学という方法の、時代との緊張感を伴った見直しがあります。今から40年前、日本経済が絶頂期にあった頃、私は経済学を学んでいました。その頃、恩師の経済学者から、経済学では国民経済という分析単位が明確だけれども、社会学では分析上の単位があいまいだ、といわれたことを覚えています。この点は、社会学では古くから弱点とされ、経済学に習ってマクロ社会学とミクロ社会学に分ける試みもあったほどです。けれども、環境について考え始めると、この分析単位のあいまいさは、そのまま武器になったように思います。私たちは、人新世(Anthropocene)における地球環境の持続性や、グローバル・サウスに生きる人びとが被る不公正について調べたり語ったりする一方で、原子力災害の被害を受けた人びとの生活再建や、メガソーラー設置に抗う地元住民の言い分への理解をもっと深めたいとも考えます。また、環境技術とAIを駆使したスマートな都市の可能性や遺伝子組み換え作物の危険性を論じながらも、その一方で、息子や娘に連れて行かれるまでは山深い集落で畑仕事をしながら暮らしたい、というお年寄りの声や、空き地が増えた市街地でまちづくりを行う人びとの声にも、もっと耳を傾けるべきではないかとも考えます。こうした様々な空間的広がりに生じる問題について一緒に討議することが可能なのは、社会学という方法論を共有しているからだといってよいように思います。
このように、ローカルな地域の問題とグローバルな世界の問題を一緒に討論できる場所があるということは、とても重要です。ただ、環境社会学が、社会学の知識や方法を用いる応用学問かというと、それだけでは人びとに尽くす上で不十分だと思ってもいます。その際、考えておく必要があるのは、社会学は、ローカルとグローバルを共に捉える複眼的視点を確かに持っていたけれども、変化の主導権は、あくまでもグローバルな世界の側にあると考えられてきた点です。もちろん、人びとの生活の場である地域の主導権や創意を大切にする挑戦も行われてきましたが、グローバルな世界への対抗という影法師のニュアンスがつきまとっていたように思います。これに対して、環境社会学は、環境という、人びとの切実な課題を扱うがゆえに、ローカルとグローバルの関係を、思わぬ方向で解きほぐし、影法師を一歩超える試みができる可能性を持っていると感じています。その可能性追求のためにも、私たちの学問が、主に何を明らかにできる能力をそなえているのか、また、どのような知識や方法論によって人びとに尽くそうとしているのかという点を自覚的に見直していくことが、ますます重要になってきているのではないでしょうか。
それらの事柄を実現するには人材が必要です。幸い、今期の役員の方々はそのような研究と実践をされてきた方々が選ばれていると思います。なによりも、学会の主人公は学会員の皆様であり、黒子としての活動をおこなうことが会長をはじめとする役員の役割だと思います。今後、大学院生をはじめとする、若手会員のサポートも積極的に行いながら、活気ある議論を学会にもたらすべく、皆様の研究と実践の振興に向けて努力する所存です。なにとぞよろしくお願いします。

2021年6月